『知的障害者の高等教育保障への展望』の職員感想文を紹介させていただきます。今回もかなりの長文ですが、よろしければご一読いただけましたら幸いです。
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⇒http://kyf-college.blog.jp/archives/1077436433.html
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私は大学院で、人間は誰もが生まれつき学ぶ権利を有していることを知りました。学ぶ権利は重要な人権のひとつであり、人は学ぶことを通して人生を豊かにしていくのだと学びました。私はこの考えに感銘を受け、誰もが学びたいことを自由に学べるような社会になってほしいと思いました。しかし、現実には社会は学力を重視した教育体制になっていて、勉強についていけない人たちや経済的に苦しい人たちには高等教育の機会が保障されていません。
ゆたかカレッジが誕生するまでの経緯には、学ぶ権利を十分に保障されてこなかった人たちの想いが影響しているように感じます。知的障がいを抱えた青年たちにも学びの機会を保障してほしいと支援学校の教師や保護者、研究者が集まり運動を行ったこと、それに応えるように福祉型カレッジが創設されたことは、これまで学習権保障の外に置かれていた人たちの権利について考えるという歴史的にも重要な出来事だったと捉えています。それでも、第1章でも指摘されているように、未だ日本ではインクルーシブ教育が実現されていません。誰もが障がいの有無にかかわらず学びたいことを学べるように、このゆたかカレッジの活動が広がってほしいと思います。
第2章では授業内容について書かれています。私は実際に支援員としていくつか授業を受け持っていますが、1年目ということもあり正しく授業が行えているか不安でした。学生たちが社会に出たときに困らないために、また、ゆたかカレッジで楽しい思い出を作ってもらうために、どんなことを学んでもらうか毎日考え悩んでいます。しかし、本章で紹介されているキャンパスの学生の様子を読み、その不安が少し和らぎました。自分が一生懸命、授業内容やカレッジでの接し方を考えて支援することで、本章に書かれているような学生の姿を見ることができたら嬉しいです。
また、本章で紹介されている大学との連携は、高等教育の機会保障という観点からみて大変興味深い内容でした。この取り組みはカレッジの学生たちが高等教育に触れられるという点だけでなく、一般の大学生に彼らのことを知ってもらえるという点でも大きな意味があると思います。ゼミへの参加などを通して、将来的に共同研究が行えたらいいなと思います。
第3章で書かれている「働く=社会参加」という考え方について、それでは「社会参加」とは何かを考えました。自立とまでは言えずとも、自分のできることを社会のために行うことで社会に貢献する、そしてそのことを通して周囲がその人を社会の一員として受け止める、これが「社会参加」ということなのではないでしょうか。ゆたかカレッジではひとりひとりが社会参加できるように支援をしますが、社会全体を変えることはなかなか難しいです。それでも、ゆたかカレッジの活動が社会に広まり浸透することで、インクルーシブ社会が実現し、障がいを持つ人でも十分に社会参加が可能な世の中になってくれると信じて支援を行っていきます。
また、本章に載っている保護者座談会の様子も大変貴重な資料だと感じています。障がい者教育において保護者の存在は切っても切り離せないものです。保護者の方々と対話をしてそれを記録し積み上げていくことが、今後の障がい者支援の質をよりよくしていくために欠かせないと思います。
第4章で特に興味をひかれたのは専門性についての議論です。序盤の方で述べられているように、ゆたかカレッジには福祉と教育の両面があり、そのどちらの専門性も必要とされています。ゆたかカレッジには元々福祉や教育の現場で働いていた人が多く、その知識や経験を活かして専門的な支援を行っています。それでは、新卒の私には専門性はあるのでしょうか。私は教育学の修士号を持ち、教員免許も取得しています。ですが、現場で働いたことはありません。何を以て「専門性がある」とするのか、これは私が大学院で教師の在り方を研究していたときにも直面した課題です。
私の結論は、専門性は現場で養われる、というものです。目の前の学習者とのかかわりを通して、日々自分も学んでいこうとする、この姿勢が専門性を構築していくのだと考えています。本章の最後は、「学生たちのなかで学ぶ支援教員たち」という題で、支援教員の手記で締められています。学生へのアプローチを模索しながら、支援教員自身も様々なことを学んでいく、この積み重ねがゆたかカレッジにおける支援教員の専門性を裏付けているのではないでしょうか。
第5章では、文科省の小林美保さんが紹介している実践研究についての報告が特に興味深かったです。前述したように、現場で利用者の方と接する中で支援教員が学ぶことは多くあります。その学びや経験をそのままにせず、研究として整理し積み重ねることが、今後の障がい者教育をよりよいものにするために必要なことだと思っています。本章では、そのような実践と理論の繰り返しがゆたかカレッジで行われていることがよく分かる事例が紹介されており、支援教員として日々利用者と接することが障がい者教育研究に結びついているのだと実感することができました。
また、大学との連携についての話では、やはり大学に通う学生に障がい者教育に触れる機会を与えることができるという点に魅力を感じました。私の所属する◯◯キャンパスではまだ本格的な連携は行われていませんが、今後近隣の大学、ゼミと連携できるように頑張りたいと思います。
本書で述べられているように、日本ではインクルーシブ教育が未だ実現していません。ゆたかカレッジが目指すこと、それを実現するために日々奮闘していることを、本書のように実践記録として残すことは本当に重要なことだと思っています。自分が日々一生懸命行っている支援が実践記録として残り、将来の障がい者教育に結びついてくれたら、こんなに嬉しいことはないと思います。本書を読み、毎日の支援を頑張ろうと、より熱意がわきました。
ゆたかカレッジで働き始めてまだ2ヶ月も経っていませんが、短い期間の中でも学生との交流は本当に楽しいです。学生との信頼関係を築きながら、少しずつでも高等教育の機会保障実現に近づいていけたらいいなと思います。(T.K)
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