展望表紙『知的障害者の高等教育保障への展望』の職員感想文を紹介させていただきます。長文で恐縮ですが、よろしければご一読いただけましたら幸いです。

本の購入をご検討の方はこちらをご覧くださいませ。お得なキャンペーン実施中です。

************************************************
クラスメイト、職員等の様々な人と関わり、豊富な体験をすることで人生について考える機会をくれる場所がゆたかカレッジである。現代人の多くは、高校卒業後は進学し10代後半から20代前半に人生の長期休みを経験する。しかし、障がい者は18歳になると就労や施設入所する場合が多く、人生の選択を狭められているのが現状である。一般的に18歳では、判断能力や人生経験が乏しいと考えられており、学生生活を通して自分らしさを見つけて大人になっていく。私自身、福祉・医療従事者に囲まれた環境で育ってきたが大学は教育系に進学したことで、未知の世界に触れることができ、物事を柔軟に受け入れられる人間になったと思っている。障がいの有無に関わらず青年期の過ごし方で、その後の人生が大きく変わると思う。強い折れない心を育てるために、遠回りの人生になったとしても「ここに通って良かった」と思える場所がゆたかカレッジなのではないだろうか。

障がい者にとって特別支援学校や福祉施設は、障がい者への理解がある人が多くいるため一般社会より過ごしやす環境であると思う。守られた環境から就労の場への環境の変化に対応することは容易ではないので、カレッジでの生活の中で学生同士で話し合う機会を設けることで周囲との合意形成の仕方も学び、環境の変化にも耐えられる強さを身に付けることができる。支援教員の役割は、学生の就職に対する意欲を引き出し、学生自らが得意なことを見つけられるように環境を整えること。一般の学生の場合は、自ら行動しなければ持っている能力を発揮できずに苦労することがあるが、ゆたかカレッジの学生は保護者や支援教員等、力を貸してくれる人が大勢いる。見方を変えれば、障がいを持ったことで人や環境に恵まれたと捉えることができる。また、同年代の大学生と交流することで、カレッジの学生の素直さに触れ、一般の学生が自分と向き合うきっかけにもなっている。

カレッジを利用する学生だけでなく、保護者もカレッジに何かしらの期待があり、成長を楽しみにしている。発達障がいの子どもを持つ親は、普通学級に通わせたいと希望する。小学校入学時に、発達障がいとわかっていながら普通学級を選ぶのは他の子と同じ教育を受けさせたいという親の願いだと思う。しかし、その環境が子どもを苦しめてしまうことがある。普通学級に親がこだわるのは、普通学級より支援学級が劣っている、社会から外れてしまう、進学できず将来が不安等の認識があるからではないだろうか。このような社会的認識を変えるのがゆたかカレッジのような教育と福祉が混在する施設であり、障がいがあるからこそ他とは違った生き方ができることを発信したいと思った。障がい者支援に関して何が正解なのかはわからないが、卒業生や保護者の言葉から、ゆたかカレッジでの生活が仕事だけでなく日々の人との関わりにも役立っていることがわかり、やりがいのある仕事だと実感した。

出来ないことがあるから支援教員が代わりにやるのではなく、やり方を教えることが私たちの役割だ。利用者の成長の機会を奪うのではなく力を伸ばせるように配慮し、上から目線の指導ではなく同等でありたいと思う。また、利用者と関わることで自分の行動を見直すことができるという意見には共感できる。自分がしっかりできていないことを利用者に指導しても、中身のない指導になり利用者のためにならない。利用者を観察し、自分を見つめ直すことができるから支援教員一人ひとりの言葉に熱意を感じるのだと思う。ゆたかカレッジを福祉の目線からみると余裕を持って支援できる学びの場という印象、一方で教育の目線からすると学びの場としては厳しさに欠けるという印象だと思う。一人ひとりに丁寧に向き合い、確実に能力を伸ばし将来を見据えた支援ができていることがゆたかカレッジが期待される理由だと思う。私も先輩職員を見習い、利用者に良い影響を与えられる存在になりたい。

教育機関と比べて福祉機関は、テクノロジー(技術)で劣っている。教育現場で活用していることを福祉現場でも取り入れるべきだと思うことが多々あるが、障がい者支援は他の分野より遅れて力を入れ始めたこともあり社会への理解が十分ではないことが一因ではないだろうか。個人的な意見として、教育機関は閉鎖的であるので福祉との連携に協力的ではないように感じる。障がい者にとって学校も福祉施設と同じような役割を果たしているのだから、教育の固定観念を崩して共生していくべきだと思う。また、外国のように障がいの有無に関わらず、全員が一緒に学べることが障がい者に対する偏見をなくすきっかけになると思う。学校卒業後から社会に出るまでの移行期に利用するのがゆたかカレッジであり、特別支援教育に行ったら進学できない、将来が不安だという社会を変えることができるはずである。

福祉現場と教育現場の両方で勤務した経験があるからこそ、ゆたかカレッジの事業に共感が持てた。福祉施設で勤務しているときに、利用者に対しできることが決まっており支援の限界を感じていた。利用者から学ぶことは多かったが、力になれている気がしなかったので、施設に入所する前の環境に触れてみたいと考えて、支援学校でも勤務した。しかしそこでは、支援学校卒業後の人生の手助けができる場所ではないと感じた。福祉と教育が融合した新しい事業を展開しているゆたかカレッジは、自分が想像していた障がい者が学校卒業後の長い人生を謳歌できるきっかけになる場所であり、社会貢献できる仕事だと改めて思った。(K.M)