展望表紙ゆたかカレッジでは、『知的障害者の高等教育保障への展望』を研修課題図書として、職員全員に読んでもらい感想を書いていただきました。本日より毎日ひとり感想文をご紹介させていただきます。

職員の感想をお読みいただき、ひとりでも多くの方々に知的障害者の高等教育について関心をお持ちいただければと願っております。

長文で恐縮ですが、よろしければご一読いただけましたら幸いです。

本の購入をご検討の方はこちらをご覧くださいませ。

http://kyf-college.blog.jp/archives/1077436433.html

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 知的障害のある方は、特別支援学校高等部卒業後の進路が就職か施設入所の選択肢となっていることに疑問を抱き、大学院で専攻科について研究していました。選択する、しないは個人の自由としても、私たちにとっては当たり前になっている「学ぶ」という選択がしづらい状況、社会に出る力がまだ十分に備わってない状態で働き、離職に追い込まれてしまう状況などについては追えていましたが、離職後に再就職ができずに施設入所となると、1人当たり1か月で16万円かかること、1年間で200万円、20才から70才まで50年間利用すると約1億円もの税金が投入されるという観点はありませんでした。学生時代に研究している時は、「学びの場の提供」という気持ちだけが先行していましたが、会社に入り自分も納税者となった今は、社会福祉サービスに税金が投入されている意義や、学生に継続してサービスを提供し続けるためにも経済的な観点も含めて考えていくことの重要性にも気づかされました。

 私は昨年1年間〇〇キャンパスで学生たちと関わってきました。その中でも多くの学生の成長する瞬間に触れることができましたが、2章を読むと私が今まで出会ったことのないタイプの学生の成長も知ることができました。ゆたかカレッジの学生は個性豊かで、様々な性格の学生がいますが、成長の瞬間、成長の仕方は十人十色なのだと改めて感じることができました。4月から勤務している●●キャンパスの学生も〇〇キャンパスの学生とはまた違って、個性の強い学生が多いです。彼らが2年生に上がるとき、どのような成長をしているのか楽しみです。また、成長の瞬間に立ち会えることは支援員として幸せだと思います。

 私はまだ卒業生を送り出したことがないため、卒業生の話はとても新鮮でサクサク読めました。一番印象に残っているのは、カレッジでの授業が仕事に役立っているということです。実務の授業を担当していた時も、細かいやり方はテンポによって異なっても、おおよその流れが把握できるように、という気持ちでいました。しかし、こんなにも働き続けるうえで重要になるとまでは思いませんでした。今はまだ●●キャンパスでは就労移行支援がないですが、実務の授業を担当するときにはもう一度読み返して、日々の授業一つひとつが将来の学生の血や肉となることを思い起こして授業をしたいと思いました。

 第4章では様々な学生と、支援教員のエピソードを知ることができました。第4章の中で、同じ建物にある自立訓練と就労移行だと切り替えが難しい場合があるというところが印象に残りました。春に〇〇キャンパスで3年生の授業をした時、3年生の学生2人は就労のペースに慣れるのに少し時間がかかっていたように思います。〇〇キャンパスは新規開設校ですから、自立訓練に通っていたキャンパスとは当然ですが、建物も違います。そんな彼らでさえ、就労モードに入るのに時間がかかったのだから、同じキャンパス内で、昨日までは自立訓練でのびのびと過ごしていたのに、1日経つとピリッとしたモードに入る・・・。戸惑いがあるのも頷けます。特別支援学校高等部から入学した学生は3年生に上がる3ヵ月前に成人を祝う会があるので、〇〇キャンパスで私はそれをきっかけとして2年生には3年生に上がる意識付けができるよう声掛けを続けてきました。その結果どうだったか、いつか学生に聞いてみたいと思います。

 第5章の中でソーシャルファームの話が出てきました。実は大学院の同じゼミの後輩が日本のソーシャルファームで働いています。私は大学で福祉について学んでいましたが、その後輩の就職の話で初めて知りました。のちに、自分の研究活動を進めているなかで、韓国の専攻科についての文献を読んでいると、韓国でも社会的企業があり、専攻科と連携していることも知りました。北欧やアメリカと比べて日本の福祉制度は遅れているとよく言われますが、隣にある韓国とももしかすると大きな差がついているのではないかと思ってしまったのです。諸外国と比べて遅れているからといって、同じものを同じように取り入れたところで社会的背景が異なるため、うまく日本文化に根付けるかどうかはわかりません。日本にあった形で「共生社会」が当たり前になっていけばいいなと思います。今度ソーシャルファームで働いている後輩に話を聞いてみたいなと思いました。

 大学院時代に思い描いていたことと、実際に現場で学生たちと過ごす中で感じることは違います。しかし、現場に立つ中でより一層ゆたかカレッジの必要性を感じます。去年1年間だけでもかかわった学生の多くは成長しています。これが4年分だと・・・と単純に計算するだけでもかなり成長できることがうかがえます。保護者座談会の中でも出てきていましたが、ゆたかカレッジに通わないで社会に出たら、彼らはもっと多くの困難に直面し、困り果ててしまうかもしれません。ゆたかカレッジを卒業したからといって、困難に直面しないわけではありませんが、4年間で蓄えた力を駆使して乗り越えていってくれると信じています。卒業生保護者の座談会から、一部ではありますが、ゆたかカレッジ卒業後の様子の見通しがたちました。この本に出てくる卒業生やその保護者のように、私が関わっている学生・保護者も「ゆたかカレッジに通ってよかった」と言ってもらえるように日々の業務に精進していきたいと思います。(T.S)