4月27日からカナダの大学視察に行き、約1ヶ月が経ちました。

帰国後、視察参加者は、カナダでのプレゼンや講義、意見交換の内容について、それぞれで分担してテープ起こしを行いました。その後、訪問した5つの大学とひとつの団体で学んだことを、こちらも分担して論文にまとめました。さらに、各自で、視察で学んだ内容を総括し、研修報告書を提出していただきました。

楽しく充実したカナダでの1週間でしたが、日常業務と並行して行う帰国後の文章化は、大変です。しかし、それをしないと外部に発信もできないし、学んだことは雲集霧散に消えていってしまいます。また、彼らを快く送り出してくれた現場の職員たちにも学びのお返しができません。

ということで、まもなく、「カナダ大学視察報告書」が完成します。乞うご期待。


さて、今回視察に参加した人たちの感想をご紹介いたします。私たちは、カナダの実践に触れて、ゆたかカレッジの、そしてこれからの日本の知的障碍者の高等教育保障をどのような方向で実現していったらいいのかについて深く考えました。

詳細な報告はいずれまたということで、この感想は、カナダの大学での実践に触れて私たち視察団が率直に感じたことを端的に表しているように思いますので、ご紹介いたします。


視察参加者Aさんの感想

 視察を通して考えさせられたことは、インクルーシブな取り組みが何なのかぼんやりとしており、ゆたかカレッジの取り組みとの比較も難しく思った。私自身ブルース氏に指摘され、正直方向性がわからなくなっていたが、ブルース氏の息子ドットさんのお話を聞いて「ひとりの人」として受け止めたブルース氏の寛容さに感銘を受けた。
 最初に視察の中で感じたことは、高等教育の土台、スタートの違いである。また社会に出るまでに必要なことは何なのかについて考えさせられた。始めは、答えが見えずにスッキリしなかったが、世界とゆたかカレッジで行ってるプログラムを融合し、インクルーシブ教育を進めていけば、さらなる高等教育のあり方も変わるのではないかと思えた。
 今回、カナダでの取り組みについて多くの大学を視察させていただき、とてもいい刺激となった。また一生懸命学ぼうとしている学生は、世界共通でとてもいい表情をしており、ゆたかカレッジの学生と重なる部分もあった。
 日本でも早く障碍をもった方が大学内で教育を受けることができるようになれば、ゆたかカレッジの学生も更なる成長を遂げることができるのではないかと思う。青春を謳歌しつつ、社会で生きていくための力を養っていく、これこそが私たちが求める姿ではないかと思う。今回の海外研修で学んだことを今後のゆたかカレッジプログラムに活かしていきたい。


視察参加者Bさんの感想

 今回の視察研修を通じて、私が感じたことは国内外における情報交換と視察の重要性である。これまでも鞍手ゆたか福祉会では、いくつかの国に視察に訪れている。その都度、日本国内の現状が如何に諸外国と異なっているかということを痛感してきた。今回、訪れたカナダでは、5つの大学を視察させて頂いた。どの大学も障碍学生をどのように受け入れていくかということに正面から向き合い、関わるスタッフも日々の支援教育に取り組まれていた。私は、スタッフの姿勢について学ばせて頂いた。その中でも、「学生の障碍やできないこではなく、できることややりたいことに焦点を当てる」という姿勢は、どの大学にも共通したものであった。
 障碍の有無に関わらず、自分の周囲の人々が自分をひとりの人間として認め、尊重しているということは、非常に重要なことである。何ができる、できないだけでその学生を判断するのではなく、何をしたいか、したくないのかという本人主体の考えで周りがサポートしていくことが必要である。自分がやりたいことができることで、本人の気持ちは大きく変化し、「自分はやりたいことをやっていい人間である」と確信できる。その確信こそが、青年期の彼らにとって大きな自信となり、確固たる自己肯定感の基礎になるのではないかと考えた。もちろんこのことは、カナダに限ったことではなく、ゆたかカレッジにも共通していえることである。私たち支援教員は、常にカレッジの学生が何を望んでいるのかということにアンテナを張り、できる限りの情報収集や提供を行っていくこと、学生が悩んでいる時にはともに考えていくことなど様々なサポートをしていくことが求められている。
 カナダで出会った学生たちが、笑顔で自分の大学生活や仲間について話す姿はとても輝いており、彼らの今後の人生においてかけがえのないものになるのではないかと感じた。
 そして、ゆたかカレッジの学生のみんなも、多くの思い出と仲間をゆたかカレッジで手に入れられるよう今後も寄り添っていきたいと思う。

視察参加者Cさんの感想


 今回のカナダ視察研修では、カナダが30年前から取り組んでいる包括的な高等教育について学んだ。
 大学のキャンパスでは、同世代の学生たちと一緒に学んだり、部活やボランティア活動を経験する中で、周囲の人たちとコミュニケーションが取れるようになったり、興味のある仕事に就くためにアルバイトをして経験を深めるなど、様々な取り組みがなされていた。
 今回の視察研修でも、大学に通っている学生や保護者、彼らに直接関わっているスタッフらから話を聞く機会があった。そこでは、大学で学ぶことで成長している学生たちのリアルな姿を知ることができた。やはり、障碍のある学生が、一般学生と同じように大学生活を送ることで得られるものは大変大きく、これらは学生の生活や成長に必要なものであると確信した。
 現在ゆたかカレッジが提供しているカリキュラムも、生活スキルや就労スキルなど、これからの彼らの人生に必要なことを4年間かけて学ぶことができる素晴らしい取り組みであると思う。今回の研修で感じたことは、ゆたかカレッジが提供している授業内容や体験学習などを実際に大学の中で取り組むことができれば、学生にとって、より大きな経験を積むことができる4年間になるだろうということである。
 障碍の有無に関係なくみんなが同じ環境の下で学ぶことで、学生も関わる人たちも成長できること、そのためには、支援を提供する側がしっかりと学生たち一人ひとりの個性や特性を把握することも必要であると感じた。


視察参加者Dさんの感想

 先進的な取り組みに学ぶということは、その取り組みをそのまま私たちの取り組みとして受け入れることではなく、自分たちの実践と重ね、検討することで日本におけるゆたかカレッジをどう位置付け、方向づけていくべきかを見据えるということである。そのために、視察地域の文化的背景や社会的背景も理解した上で視察することが不可欠である。
 カレッジとインクルージョンアルバータの取り組みは、方法に大きな違いがあり、一概にどちらがいいと言うことはできない。社会的に障碍者の学びの価値が認識され、社会において障碍者の人権や生活保障が成り立っているのであれば、インクルージョンアルバータの取り組みは加速度的な理解と広がりを得ていくに違いない。しかしながら、アルバータ州内においてもいまだに「分けて教育する」教育的背景、文化的背景が根強いとのことであった。
 学生の間はインクルーシブな環境が用意されていても社会人になってからはどうなのか、また、重度障碍のある生徒の進学はどうなっているのか、といった点で疑問も残る。30年間の取り組みは素晴らしいものであるが、それが社会的に認知され、インクルーシブな社会形成にどれだけ寄与できているのかはやや疑問である。その原因はやはり受け入れている障碍学生数の少なさにあるのではないだろうか。実践する大学を増やしているとはいえごく一部の学生だけがインクルーシブ教育を享受している状況が続くならば、目標がどこにあるのか問われるのではないかと思う。
 一方カレッジは現在のところ、障碍学生だけが学んでいる場ではあるが、その受け入れ数は重度障碍者を含め年々拡大し、社会的にも加速度的に認知されつつある。現場での実践に加えて、多くの情報発信や行政への働きかけなど、目標を社会変革においていることを明確に示している。大学内でのカレッジ運営など現在進めている新たな取り組みもそれを示している。あえて言うならば、アルバータのようなサポート体制があればさらに現場レベルでの実践が充実すると思う。
 最後に、私たち視察団を温かく迎えてくださった方々に対して、最終的には同じ目標を持つパートナーとして深く感謝しています。