入学当初とても気になっていたことの一つに、何かにつけて「ごめんなさい」という言葉が出ることがあった。狭い廊下で、ちょっとすれ違っただけで、「あっ、どうもすみせんでした」と間髪いれずに言ってくる。謝ることもない状況でも、まず自分から謝ってしまう。

とりわけS君は、その傾向が強かった。どうして自分だけできないのだろう。長年、できない自分を強く意識して生きてきたのだろう。やりたいことがたくさんあり、あれもやりたい、これもやりたい、家ではアルバイトをしていることなど、人懐こく振舞いながら、職員に話しかけてくる。しかし、その言葉とは裏腹に、苦手なことからは、さっと身を引いてしまうことも多かった。

そんなS君が、漢字検定に取り組んだ。5年越しで4回も落ちている7級の試験に挑むことになった。また落ちたらどうしよう。とても不安であった。一生懸命勉強するものの、苦手な項目は、なるべく避けて通ろうとする様子は変わらない。設問の意味がよく理解できないために、なかなか前に進めない。「資格検定」の時間に、重点的に個別にかかわることにした。その中で、少しずつ分かることが増えてきた。そもそも、漢字を覚えることが、自分のためというよりも、周りの人たちにほめてほしいことに理由の根拠にあった。「アルバイトやりたいなー」「郵便局のアルバイトには4級が必要なんですよ」と言ったりする。その背景には、家族から、「家でぶらぶらしてるよりも、アルバイトでもしなさい」と言われたりする機会が多いこと。そこから逃れたい気持ちと、それを求める保護者や姉から認めてもらいたい。そんな心の葛藤が見え隠れする。

カレッジ早稲田に通い始めて、早稲田大学の早稲田祭パレードに参加したり、そのつながりから、大学生の「よさこいサークル」にあこがれ、夜の練習に参加することになった。憧れが、実現していく貴重な体験を積み重ねてきた。カレッジ早稲田に通い、一年近くが経ち、今までとは違う自分に気がつき、自信につながっている。

漢字検定が1月に行われ、今までとは今回は少し違う。「受かりたい」その気持ちが前面に出ていた。家に持ち帰って、宿題をやってきたり、自主学習の時間になると進んで勉強を始めたり、前向きな姿があった。そして見事、かなりの高得点で、5年越し、5回目で合格を果たした。また、この間、居住地区のグループホーム体験をしたり、自律・自立に向かう青年期らしい、著しい成長の姿が見られた。

       カレッジ早稲田 栗林