1.はじめに

故有って、幼少時から私と妻(GGとバーバ)との三人での生活が始まり現在に至っています。つまり、私(自他共にGGと称しています)が孫娘の保護者となったわけです。孫が2歳中頃になっても“片言も発しない”、話しかけても“無表情”、しかも“歩かない”ことに加えて“食欲だけは旺盛、有ればあるだけ食べて太るばかり”で、先が全く見通せない真っ暗で長い長~~いトンネルの中を、まさに暗中模索する日々を過ごしていました。

ところが、友人を介して菜の花保育園や長崎県療育指導センターに出会い、適切な保育や療育を受けることにより徐々に改善の兆しが見えはじめたものですから、小学校は“特別就学措置・条件観察付”ということで通常学級で学ぶことができました。幸いなことに6年間、「いじめ」らしいことを受けることはなかったものの、学習にはまったくついていけず、かといって、先生がプリントなどの別教材を渡すなど特別扱いされることについては“強く拒絶”し、合わせて、同級生との会話や交流がほとんど出来ず、いつも無表情で暗い面持ちで過ごしていました。

そこで、中学校は私の強い希望で養護学校中学部に入学させることにしました。環境の急激な変化に対応できるだろうかと、私は強い不安を抱いていましたが、養護学校は幸いにも心地よい居場所になり、表情が見違えるように明るく笑顔に満ちあふれるようになっていきました。中学部に引き続き高等部は特別支援学校に入学し、一般就労をめざして“レッツ能開ふれあい体験”や“能力開発センター体験入校”などいくつかの現場実習を積み重ねるなどして学習を深め、長崎県南部障害者就職面接会で二社を受験しましたが不採用になり、その後、長崎能力開発センターを受験しましたが、これまた不合格となりました。

ところがタイムリーなことに、あらたに大村市にオープンすることになった“カレッジながさき”に巡り会うことになり受験し、「入校」が許可されました。しかも、「高等部卒業後に、あまり間を置かない方が良いでしょう」とのことで、卒業式(3月1日)の翌日から「通学」して良いという実にあたたかい心配りでもありました。このような配慮にも“カレッジながさき”の開設の精神が感じられ、とても嬉しく有り難いことだと感謝したものです。



2.“カレッジながさき”についての私の認識について

“カレッジながさき”「入学」に先立つ説明会などにおいて、長谷川正人理事長や福岡教育大学猪狩恵美子教授が話されたことの中で特に強く印象づけられたことは、①「健常者には専門学校、短大、大学などへ進学する道があるように、特別支援学校高等部の卒業生にも、それらに相当する学習の場が保障されるべきである」、②「一般就労しても中途で挫折した場合、学習期間が長いほど立ち直りがはやい」、また、③「余暇を有効に活用すること、つまり、楽しみ方を知っておかないと働くことは長続きしない」、という三つのことで、どれもが“ナルホド!!”と納得させられるものでした。

また、“カレッジながさき”は、制度上は「自立訓練(生活訓練)」の場ではありますが、特別支援学校高等部卒業後の学びの場であり、自立していくための「金銭管理」「食生活」「調理実習」「余暇活動」「職場体験」など、特別支援学校高等部の延長(支援学校の「大学」)という位置づけで4年間の教育課程が組まれており、その内容は1・2年生が教養課程、3・4年生が専門課程となっているということです。

さらに、「大学」と位置づけてのことで、自分でテーマを見つけて調べ学習の発表の場としての「論文発表会」や、福岡、北九州、早稲田などとの4“カレッジ”の交流学習会なども企画され、社会性を学ぶ機会を作って頂いています。

ところで、鞍手ゆたか福祉会“カレッジながさき”は福祉施設なので学校法人ではありませんが、崇高な精神で、内部的には特別支援学校の「大学」という位置づけで、「入所」は「入学」と称し、また、「利用者」であるが「学生」と呼び、「支援員」であるが「教官・先生」と呼ぶなど、本人たちには「大学生」という自覚を持つように指導されています。

ちなみに、こんなことがありました。心臓疾患(肺動脈弁狭窄症)手術のため入院中に、本人が見るからに幼い容貌なので看護師さんから「中学生ですか?」と尋ねられたとき、「いいえ、大学生です」と誇らしげに“即答!”したので、「なるほど!」と実感させられた次第です。



3.“カレッジながさき”の先生方にお願いしていることについて

“カレッジながさき”の先生方には、「障害についての状態等」について大体次のような内容を報告し、指導と支援をお願いしています。

1)過食・過飲の傾向に歯止めがかからない。三度の食事は決まった量で満足しているようだが、一人で留守番しているときや夜中に起き出しては、買い置きしているパン類や電気釜の中のごはんや冷蔵庫の中の生ものまでも食べまくり、体重の増加に歯止めがかからず、体脂肪率も50%を超え病的な状況である。長崎大学病院の先生からは、インシュリン値が非常に高く糖尿病がいつ発症してもおかしくないと言われている。

2)また、隠れ食いした後の容器や食べかすなどを机の下や引き出しの中、あるいはタンスの下の隙間などにねじ込んで隠すなど清潔・衛生観念に欠けており、朝起きたらすぐ顔を洗うこと、トイレの後は必ず手を洗うこと、汚れた洗濯物はすぐ出すことなどと合わせて度々注意しているが生活習慣として全く身についていない。

3)さらに、部屋の整理整頓も悪く忘れ物も多い。就労に向けては、早寝早起きして余裕をもたせるために早めに家を出ることなど、とても大事なことだと何度も何度も注意しているが、「長崎駅に着いてから“JRを待つのが嫌”だ」という言い方で自己主張し、本気で私の注意を受け入れてはくれない。

4)金銭の管理もずさんで、心臓手術の際の3万円ほどの入院見舞金を一週間で菓子類などを買い食いし、その結果、体重が一気に10㎏ほども増えてしまったこともあった。まとまったお金を持っているときの買い食いの状況たるや壮絶なものである。



4.“カレッジながさき”での「学習」内容などについて

自立をめざして「学習」している内容について、これまでに学んだことなどを具体的に紹介し、振り返ってみます。

1)「金銭管理」について

学習の一環として小遣い帳の付け方や間食の管理・指導までも目的意識的になされており、徐々にではあるが、自覚の高まりが感じられます。現在は私が毎週月曜日に300円与えていますが、それらも含めて収入・支出の記録指導をしていただいています。これまで、レシートと記帳内容とが合わなかったことから、使途の「問題点」が発覚し指導に活かされたことが何回かありました。しかしながら、まだまだ私の不安感は拭える状況に到達していません。ついでながら、お金(数)の量的な認識のレベルで言えば、例えば先日、「230円の半分はいくらか」と尋ねてみたが、「115円である」ことが出てこず、バーバ(妻)が、「200円の半分は100円。30円の半分は15円。だから、230円の半分は115円でしょう。」と説明していたが、今ひとつ釈然としない表情をしていました。以前、大金の管理で大失敗をしました(短期間での買い食い)が、最近、今後の障害年金受給を想定して預金通帳の作り方を学習したそうで、その成果として、今回の成人祝いにかかわる大金の扱いについては先生の巧みな指導を受け入れて“マイ通帳”に入金したとのことです。お金(特に大金の場合)への執着が強く、これまで何回か難儀したことを思えば、“カレッジの先生様様!”と深く感謝しているものです。

2)「食生活」について

隠れ食い、買い食いなどの問題を抱えているので、間食のあり方についても学び、関連グループホームの“レジデンス大村”にても管理・指導を受けて、徐々に意識は高まっているように見受けます。ただ、自宅からの「登下校」の途中での買い食いや帰宅した際の食にかかわる自制や自己管理については、まだまだ課題を抱えているようです。

3)「調理実習」について

これまでに以下のようなメニューについて学びました。その数の多さに改めて驚いています。なお、事前に調理実習のメニューを考え、レシピにもとづき予算内で食材を買いに行って調理しています。調理にとても関心が高いようで、これらの3分の1ほどは自宅でも一人でレシピを見ながら黙々と調理し、我が家の食卓を賑わせてくれました。いずれも格段においしくいただくことができました。このようなことは、高等部までの生活では到底考えられなかったことで、その成長ぶりをとても嬉しく思っています。

たきこみご飯、ハンバーグ、ポトフ、「日本型食生活」メニュー、ピザトースト、ミートスパゲッティー、弁当メニュー、ササミのフライ、コールスロー、天ぷら(さば、さつまいも)、豚汁、レタスの肉巻き、ゆで豚のタレかけ、ホワイトチョコのレアチーズケーキ、卵なしクッキー、かぼちゃのそぼろ煮、もやしたっぷり野菜炒め、カレーうどん、あんかけうどん、煮込みうどん、ちゃんぽん、肉じゃが、たたきごぼう、鶏のからあげ、煮こごみ、鶏肉団子と春雨スープ、豚肉の生姜焼き、ポテトサラダ、ちくわの磯辺あげ、豆苗ともやしのごま和え、ホットケーキミックスで豆腐ドーナツ

4)「職場見学・職場体験」について

これまで、以下のような活動に参加し、就労に向けて学習することができました。

職場見学(ケーブルテレビ、ニチレイフーズ、FM大村)、職場体験(大村郵便局、大村市立図所館、大型スーパートライアル)

5)「知的学習」について

一般就労など自立に向けては生活面だけでなく知的にもまだまだ「学習」を継続していくことが必要だと思います。このことにかかわっても、調べ学習発表の場としての「論文発表会」が設定され、昨年度は心臓手術入院のことにかかわり「生まれ変わった自分」というテーマで発表することができましたが、今年度は「CMについて」というテーマで発表することになっています。また、「ワープロ検定」、「漢字検定」、「数学(算数)検定」などにも取り組んでいますが、これまでに「ワープロスピード検定5級」、「漢字検定7級(小学4年程度)」、「数学(算数)検定10級(小学2年程度)」にそれぞれ合格し、新たに「電卓検定」と合わせて次のレベルへの挑戦を目指しています。

6)「特別講座」について

特別に外部講師に指導していただいた講座は以下のようなもので、それぞれが味のある経験になったようです。

ボウリング、太極拳、釣り(長崎市高島町釣り公園)、筆ペンアート、みそ作り

7)「余暇活動」について

これまでに以下のような活動をし、余暇の過ごし方について体験しながら社会性を身につける上で大きなプラスになっています。

全国専攻科(特別ニーズ教育)研究会in福岡参加、がんばらんば国体開会式参加、がんばらんば大会ボランティア参加、論文発表会(予選)、福岡での論文発表会(4“カレッジ”合同)、カレッジ福岡での4“カレッジ”(ながさき、福岡、北九州、早稲田)交流会、ハウステンボスでの3“カレッジ”(ながさき、北九州、早稲田)交流会、ゆたかサンフェスタ(福岡県鞍手郡鞍手町、サンガーデン鞍手)バザー参加、ちっごマラソン大会(福岡県筑後市、県営筑後広域公園)、オリエン合宿(諫早青少年自然の家)、キャンプ(佐賀県北山少年自然の家)、チャレンジデー(大村市のイベント)参加、ボウリング、カラオケ、サザエさん展見学(長崎県歴史文化博物館)、たこ焼きパーティー、登山(佐世保市展海峰、長崎市稲佐山)、おおむら遊園観光(人力車など)、プール(大村市民プール、のんのこ温水プール)、初詣(大村神社)、バザー販売(フライドポテト、たこ焼きなど)、花見(大村公園)、川遊び、ドライブ&たらみ図書館、グループホーム“レジデンス大村”体験会



5.おわりに

“「学生」こそが主人公”という理念が端々に感じられます。とりわけ、驚いたことは入学式の進行でした。先輩がいない第1回生、初めての「入学式」、だから前例がない。式次第の作成・掲示から当日の司会・進行までも学生たちが自分たちで話し合って分担したとのこと。当日は、保護者・来賓が室内にて着席。外に並んだ新入生の一人が「新入生入場」と号令を発したものですから思わず大声を出して笑いそうになったものです。学生(といっても全員が新入生)入場後の司会・進行も同様。また、修了後の懇談会(茶話会)もゲームを含めてすべて学生が取り仕切り、先生方は一切口出しをされませんでした。私は、入学式の有様に“カレッジながさき”の日々の学習や諸活動のあり方が読み取れると感慨深く思ったものです。“「学生」こそが主人公”という基本理念はもとより、個々の学生の実態に応じたきめこまやかな指導がなされているのも“カレッジながさき”ならではのことだと思います。

私・GGにかかわることに限定して言えば、金銭の管理や食にかかわる指導、はたまた、清潔・衛生観念の醸成ということにかかわっては、先生方に大変お世話になっています。家庭では言葉のやりとりでは、受け入れ側の限界があり大変難儀することが度々ありましたが、先生方の適切な指導・支援があったればこそと、そのたびに深く感謝しありがたく思ってきました。2年生となった現在、2014年11月10日にオープンした共同生活援助事業所(介護サービス包括型)・グループホーム“レジデンス大村”に入所しています。本人は大いに乗り気で、前向きに考えているようですが、10月23日の開所式当日の状況を見ると、どうも旅行気分のようでウキウキテンションが上がっていたようです。果たして、就労や自立をめざしての“レジデンス”と意識しているのか疑問にも思えますが、“カレッジながさき”と連携した“レジデンス大村”での学びにも大変期待しています。

“レジデンス大村”では、おやつ(間食)についても十分に管理・指導がなされており、私は深く感謝しています。が、まだまだ自宅に帰ったときには「過食」や「隠れ食い」が見られます。“カレッジながさき”や“レジデンス大村”の先生方の指導や支援により徐々に改善・自立していくことを願っています。

人生は長い。学ぶ期間は1年でも長い方がよい。ハンディーを抱えていればなおさらのことです。これまでの“カレッジながさき”での学びを通して、強く実感しています。孫娘は現在2年目修了間近ですが、今後も継続し4年間の全課程の修了を目指しています。

今後、“カレッジながさき”や“レジデンス大村”の仲間が増え、お互いの成長を喜び合えることを願っています。多くの「新入生」の「入学」を首を長くして心待ちしています。


                            カレッジながさき2年生の保護者「長崎のGG」様