理事長の長谷川です。
ずいぶん久しぶりの投稿になります。


現在、私は、教育視察のため、アメリカ北東部マサチューセッツ州のボストンに滞在しています。

今回の米国視察の目的は、特別支援学校高等部を卒業した知的障がい者の多くが大学に進学しているというアメリカの実状をこの目で見ると共に、その歴史、制度、教育内容などについて学ぶためです。

今回は、当法人の職員5名で渡米しています。メンバーは、私、副理事長、井手福岡事業本部長、岩切カレッジ統括管理者、カレッジ福岡志免木学院長です。



今回の視察旅行は、10月28日(火)から11月4日(火)までです。



29日(水)は、Transition Matters Conference(移行に関する会議)というマサチューセッツ州教育界全体の障がい者の受け入れ、移行に関するカンファレンスに参加しました。本来なら、部外者という事で参加できないイベントでしたが、The Institute for Community Inclusion(ICI:コミュニティインクルージョン研究所)が、今回の私たちの視察の目的に共感して下さり、特別に参加を認めていただくことができました。

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総勢500名ほどの規模のカンファレンスで、現在、米国の障がい者教育でも先端をいくマサチューセッツ州で、どのような取り組み、計画、試行錯誤などが行われているかの情報収集のための絶好の機会となりました。私たちは、大学教育に関連する2つの分科会に参加することができました。

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また30日(木)の午前中は、実際に知的障がい者を受け入れているレスリー大学を訪問し、知的障がい者の大学における支援プログラムであるThe Threshold Programについてレスリー大学Arlyn教授、プログラム責任者James氏とHelen氏のレクチャーを受けました。

そして、同じく30日(木)の午後は、マサチューセッツ州立大学ボストン校を訪問し、知的障がい者を受け入れているプログラムを管理している部門であるCollege of Education & Human Development(教育と発達のための大学)のFelicia教授と学生支援センター代表Aimee氏にお話をお伺いしました。



今日は、29日のTransition Matters Conference(移行に関する会議)の内容について報告します。

会場は、ボストン中心部から車で西に約1時間走ったMarlborough(マールバラ)のロイヤルプラザホテルでした。会場に着くと、大勢の人たちの熱気に包まれていました。プログラムが8時半に始まるということで、パンやフルーツ、コーヒーなどの朝食も自由に取れる場所もありました。


最初のセッションで、私たちは、6つの分科会のうち「Massachusetts College and Career Readiness Efforts」(マサチューセッツ州における大学と職業準備訓練の取り組み)に参加しました。報告者のLisa氏は、マサチューセッツ州発達支援教育部門のプロジェクトCollege and Career Readiness(CCR)の責任者です。

Lisa氏の報告の概要は以下のとおりです。

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このプロジェクトの目標は、すべての知的障がい者が高校卒業後、自らの力で充実した人生を歩むことができるための支援をすることです。具体的には、以下の内容になります。

①支援学校5年間の卒業率を上げる。(アメリカでは、最長22歳まで支援学校に通うことができ、卒業は、一定の自立レベルに達した段階で可能となる。6年以上を費やして卒業する生徒も多い。)
②Mass Core(英語・数学・科学・歴史・社会科学・外国語・物理・芸術・その他の必修科目)の達成率を上げる。
③大学に入学する学生の数を増やす。
④大学に進学できる年齢においても依然として支援学校に通う生徒の数を減らす。
⑤職能開発教育に参加する学生の数を増やす。

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この取り組みは、昨年から行われており、今後本格的に展開していくとのことです。




2つめのセッションでは、「college Options for student with intellectual disabilities」(知的障がいを持つ学生のための大学選択)に参加しました。報告者は、マサチューセッツ州所属の統合教育コーディネーターのGlenn氏とマサチューセッツ州立大学ボストン校でコミュニティインクルージョン研究所で教育と移行支援チームの責任者Debra氏でした。報告の概要は以下のとおりです。


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マサチューセッツ州では、865人の知的障がい者が大学に通っています。彼らの平均年齢は20歳で、年齢層は18歳から53歳です。性別の内訳は、男性が約60%、女性が約40%です。移行サービスを受けている学生は、全知的障がい者の22%です。


学生たちの単位取得数の平均は、年間を通じて8コースです。それらは、以下のとおりです。


①Acting Fundamentals(演技の基礎)
②marketing principles(マーケティングの原則)
③introduction to business(職業の紹介)
④technology(テクノロジー)
⑤sustainable landscaping(持続的な美化)
⑥world music culture(世界の音楽文化)
⑦world history 1500-present(西暦1500年から現代までの世界史)
⑧child psychology(児童心理学)


学生寮で生活する機会を提供しているのは、43ヶ所のうち14ヶ所。93%の学生たちは、一般の大学生と一緒の学生寮で生活しています。

学生の70%が、他の職能開発のプログラムを通じて働いています。そのうち36%の学生には、給料が支払われています。さらにそのうちの89%の学生は、最低賃金が保障されています。学生たちの職種は、フィットネスセンターの監視員、水族館の館内案内研修生、イベントスタッフ、衣料品店関係、自動車修理工場の整備士、大学図書館の仕事の見習い、大学学生課事務研修生、医療施設のマーケティング研修生などです。

知的障がい者の大学進学の取り組みは、2007年にスタートしました。13校の4年制大学や短大が参加しています。現在、10校で知的障がい者受入プログラムが存在しています。4年制大学が4校、短大が4校、それ以外が2校です。多くの大学で、学生寮も運営されています。


【マサチューセッツ州内で知的障がい者を受け入れている大学】

1.Westfield State University(ウェストフィールド州立大学)
2.Holyoke Community College(ホールヨーク・コミュニティ大学)
3.UMass Amherst(マサチューセッツ大学アマースト校)
4.Middlesex Community College(ミドルセックス・コミュニティ大学)
5.Bunker Hill Community College(バンカーヒル・コミュニティ大学)
6.Roxbury Community College(ロックスバリー・コミュニティ大学)
7.Mass Bay Community College(マッスベイ・コミュニティ大学)
8.UMass Boston(マサチューセッツ大学ボストン校)
9.Bridgewater State University(ブリッジウォーター州立大学)
10.Cape Cod Community College(ケープコッド・コミュニティ大学)

私たちの目的は、18歳から22歳までの学生に学びの機会を提供することです。また、知的能力の低さのため大学に合格することができない18歳から19歳の知的障がい者の学びを保障することです。最終的に、大学での学びを通じて就職を支援します。また、学生自治会、文化・芸術、スポーツ、部活、その他の活動を含め、教室の外での活動を通じて様々なことを学びます。

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アメリカでは、2008年に「高等教育機会均等法」が施行させたことで、知的障がい者にも「大学進学」という門戸が開かれました。そして、今、多くの知的障がいを持った青年たちが、健常者とともに青春を謳歌しています。日本の知的障がい者の高等部卒業後の進学率は0.7%。そのほとんどは、一般の「大学」ではなく「高等部専攻科」。


私は、自分が大学生活で、人生の拠り所となるものの見方考え方や、かけがえのない生涯の友を得ることができたことを振り返ったとき、障がいの有無に左右されることなく、日本のすべての青年たちが、大学生活を満喫できる、真に豊かな国になってほしいと願います。

ICFの理念に立てば、「障がい」は知的なハンディのある人を排除するこの国の高等教育制度の中にこそ存在しています。

残念ながら、インクルーシブな大学教育が制度として確立されていない今の日本においては、当面は、福祉の制度を使った福祉型大学「カレッジ」を拡充していくしかないと思います。


障害者権利条約を批准した日本において、数年先か十数年先には、知的障がい者が大学で学ぶことがあたりまえの時代がやってきます。その時代を見通しながら、当法人は、教育内容の試行錯誤を進める中で、カレッジの実践を深めたいと思います。