法人の広報誌、「さとだより」の」今月号(26年8月号)の1面に私が執筆した「アメリカでは、2008年『高等教育機会均等法』制定後 知的しょうがい者の多くが大学等に進学」という記事の内容を、より多くの方に知っていただきたいので、こちらのブログにも転載いたします。


皆さん、ご存じでしょうか。



日本ではまだほとんど知られていないことですが、今、アメリカでは、全米50州のうち37州で200校を超える大学・短大等が知的しょうがい者を学生として受け入れています。下記のアメリカ合衆国地図のマークのあるところが知的しょうがい者を受け入れている大学です。

アメリカ大学分布 

日本では、知的しょうがい者が大学に進学するケースはほとんどなく、不思議に思えますが、世界の流れは、障害者権利条約(※1)の趣旨の下で、しょうがいの有無による権利保障の格差が、「合理的配慮」によって着実になくなってきています。



アメリカにおいて、2008年8月14日に、「高等教育機会均等法」(HEOA※2)が施行されたことがその契機になりました。この法律は、1965年に制定された高等教育法の改正法で、知的しょうがいを持つ学生のための大学・短大の整備を促進し、学費は連邦政府が財政援助することにより、青年期知的しょうがい者の大学等への進学を推進しようという内容です。

約200校のうち4年制大学が42%で、短期大学が58%です。大学の入学に関しては、正規高校や特別支援学校高等部の卒業は条件となっておらず、また一般的な入学検定試験も実施されていません。大学への入学基準は、まず、大学生になりたいという意欲を持っているということを示すこと、そして、決められた授業のうち、半分以上に出席することが求められます。なお、大学卒業時に、単位認定や大卒という学位は付与されません。

授業の内容は、学生個人のニーズを満たすための個別クラスが11.5%、一般の大学生と一緒に生活スキルや職業指導などを行う混合クラスが77%、混合クラスの中で、学生個々人に担当が付いて指導しているクラスが11.5%となっています。1クラスの平均人数は12人、最大で25人です。学生たちが受講する授業の多くは、職業スキルに関すること、健康やスポーツ、フィットネス、そして芸術の授業です。


イリノイ州の「コミュニティカレッジ」では、学科中心の授業の履修だけではなく、創意工夫のあるキャンパスプログラムを導入しており、いかに普通大学のキャンパスで普通の学生に混ざって普通の大学生活をエンジョイするかに知的しょうがい者の大学進学の意義があることに注目しています。

そして、キャンパスにいる時間の半分以上を一般学生と共に活動しさえすれば普通学生と同様に、奨学金や授業料援助などが受けられるということです。

また、同州「ルイスクラーク・カレッジ」や「ハーパー・カレッジ」、ウィスコンシン州の「エッジウッド・カレッジ」などでは知的しょうがい学生が学ぶだけでなく、キャンパスジョブ(大学構内でできるアルバイト)をしたり、芸術・体育などのクラスを中心に活動をすることによって大学生活を謳歌しています。(※3)


まさに、世界の流れは知的しょうがい者も高等教育(大学や短大等)で学ぶ権利の保障に突き進んでいます。近い将来、日本においても必ずこうした流れが訪れるに違いありません。

こうした世界的な流れをふまえ、当法人が拡充に取り組んでいる「カレッジ」の位置づけも、これまでの支援学校高等部の延長としての「福祉型専攻科」ではなく、学生たちを「おとな」として捉えた「福祉型大学」という位置づけで取り組んでいくことにしています。



※1 障害者権利条約 第24条「教育」第5項には、以下のように謳われています。

「1.締約国は、障害者が、差別なしに、かつ、他の者との平等を基礎として、一般的な高等教育、職業訓練、成人教育及び生涯学習を享受することができることを確保する。2.このため、締約国は、障害のある人に対しての合理的配慮が行われることを確保する。」

※2 HEOA=「Higher Education Opportunity Act」の略

※3 ブログ「ハワイ島の風-コクア・ラボ日誌

参考論文

Overview of the Federal Higher Education Opportunity Act Reauthorization」(連邦高等教育機会均等法再承認の概要)

College Programs for students with intellectual and developmental disabilities: results of a national survey」(知的発達障害のある学生のための大学プログラム:全国調査の結果)

A Snapshot of Postsecondary Education for Students with Intellectual Disabilities Across the United States」(米国での知的障害者の高等教育の状況)