皆様、新年あけましておめでとうございます。



今年は、しょうがい者の権利擁護をとりまく法制度に大きな変化がある年になります。まず、今年4月より「障害者差別解消法」が施行されます。この法律の目的は、「全ての障害者が、障害者でない者と等しく、基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障されること」とされています。また、昨年12月には、「障害者権利条約」の批准が国会で承認され、今年は条約批准の年になります。こうした状況を鑑みると、今年は、わが国のしょうがい者の権利擁護がようやく国際レベルに到達しつつある明るい希望の年となりそうです。



さて、鞍手ゆたか福祉会の経営理念の4番目には以下の文言が記載されています。



「わたしたちは、日本の福祉の発展に貢献し、新しい時代に向かって福祉の変革を推進します」



この文言は、私が法人設立にあたって是非とも挿入したい一文でした。明治以来のしょうがい者福祉制度拡充の歴史を振り返ると、その道筋は、常に、現場において目の前のしょうがい者に対して、心ある支援者たちが、必要とされる支援をしていく中で、次第にその必要性、重要性が社会に認知され、制度化されてきたことがわかります。当法人が掲げるこの理念も、未だ制度化されていない分野において、時代の一歩先を見通した実践を進めていく中で、しょうがいを持った人たちがより幸せに暮らしていけるよう、政策・制度の改革を目指していきたいという思いが込められています。当法人が今取り組んでいる専攻科づくり運動もそのような理念の具体化のひとつとして位置づけられます。



私が福祉の世界に入ったのは今からちょうど30年前の1983年です。ちなみに養護学校の義務制実施(1979年)の4年後。養護学校高等部の設置が拡充していったのは、1980年代以降。したがって、私が知的しょうがい者入所施設の指導員として働き始めた頃は、利用者の多くが養護学校中学部を卒業した15歳でした。身長や体型、顔の表情を見てもあどけない可愛い子どもたちでした。私が勤めた施設は田川市にありましたが、その施設に入所した利用者のほとんどは、地元の人たちではなく、久留米や八女などの筑後地方や北九州市小倉南区など、自宅が施設から遠いところにある人ばかりでした。私は、不思議に思い、親御さんに「どうしてこんな遠いところにある施設を選んだのですか?」と尋ねました。すると、「家が近くだと淋しくなったらすぐに家に帰りたくなる。だから、里心がつかないようにと思って遠い施設を選びました。」という返事が返ってきました。15歳で親元を離れ、知らない土地で知らない人と一緒に暮らさざるを得ないしょうがいを持った人たちの現実に大変切ない思いを持ったことを覚えています。



それから10年が経過した1990年頃には、ほとんどのしょうがい児が高等部まで進学するようになり、以前のように中学部卒業で施設に入る人はほとんど見られなくなりました。その頃、あるお母さんが言いました。「今の子どもたちはうらやましいね。私たちの頃にも高等部があれば、15歳で泣く泣くわが子を手放して、親元離れて遠くで暮らさせなくても良かったのにね。」私はそのときのお母さんの無念そうな顔が忘れられませんでした。



それから20年あまりの月日が流れ、今では、「高等部の上にさらに学びの場を保障しよう」という専攻科づくり運動が広がっています。日本以外の先進諸国では、どこの国でも高校を卒業した18歳以上の知的しょうがい者が無償で学ぶことができる公教育の場があり、スウェーデンなどでは30歳になっても40歳になっても学びたくなったらいつでも無償で学べる生涯教育の制度さえも整っています。そうした中、日本においても、先に述べたように、障害者差別解消法の制定や障害者権利条約の批准を背景に、ようやく現実的な進展が期待できる状況になってきつつあります。



健常の高校生の70%が進学する時代、知的しょうがい者の進学率は0.7%。100倍の格差があります。国際社会の中で、この格差は、今後必ず是正が求められます。



今から10年後、全国の特別支援学校高等部に「専攻科」ができ、20歳まで学ぶことがあたりまえの時代が来たとき、「10年前に、私たちに専攻科という選択肢があったらわが子の人生が今よりももっと豊かで輝けるものになっていただろうにね」と残念そうに語る親御さんの声が聞こえてきそうです。そんな思いをする人がひとりでも少なくなるよう、まずは福祉型専攻科「カレッジ」を広げていきたいと思います。そして、カレッジの実践を通して日々成長する青年たちの姿に学ぶ中で、しょうがい児の教育権保障、教育年限延長の運動に積極的に取り組み、福祉の世界からしょうがい児教育の変革を目指していきたいと考えております。



関係各位のご理解とご支援をよろしくお願い申し上げます。



結びに、本年が皆様にとって実り多く、健康で幸せな一年となりますよう心から祈念し、新年の挨拶といたします。